道草記

思考の掃き溜め

DYNAMIC CHORD feat.Liar-S Append Disc についての雑記(朔良編)

あらすじと筆者のスタンスは下記リンク先の通りなので、特に真面目な(?)レビューを求めて来た読者には確認をお願いしたい。

 

yukumari.hatenadiary.jp

 

檜山朔良ルートの概観および感想

 

本編要旨:

朔良は中学時代に友達の誘いでVIVIANITE(シリーズの舞台となる藍鉄区にあるライブハウス)で歌った楽しさをきっかけにして、愛する家族の応援を糧にバンド活動を始めた。しかし当初作ったバンドは高校時代に解散してしまい、同時に姉も結婚で家を離れてしまう。それでも歌うことは諦めたくないとVIVIANITEで活動を続けていたところ、芹と出会いS-leeperを結成した。後に慎也の脱退にショックを受けるも、宗太郎を迎えたLiar-Sが華々しいメジャーデビューを飾ったことで喜びに溢れていた。

メジャーデビュー以降、(千哉と同じく)「顔ばかりで演奏をまともに聴いてもらえないこと」、「デビュー曲『グッバイ サブウェイ』以外の曲が聴いてもらえないこと」に苦しみながらも諦めずに歌っていたが、ある時、喉の不調で明らかに失敗した舞台だったにも関わらず聴衆は誰もそれに気付かなかったこと、そして同時期に家に残った最後の家族である父が亡くなってしまった虚脱感から歌に力が入らなくなり、また真剣に歌おうという意欲も失くしてしまった。やるせなさを紛らわせるために喫煙を始めたのもこの時期である。

 「拒絶されてもなお、音楽への熱情に溢れていた頃の朔良の歌声を取り戻したい」という主人公の言葉を受け、芹は自分の家に半ば居候している朔良もろとも主人公を朔良の家へと連れて行く。苛立つ朔良に追い返された主人公は、芹の助言を受け食材を携えて戻り、「食べ終わったら帰るので、満足に食事ができていないという朔良のために料理を作らせてほしい」と言って朔良の部屋に嫌々ながら受け入れられる。主人公が作ったオムライスに幼い頃に亡くした母の味、および愛する家族との思い出を呼び起こされた朔良は、それらが失われてしまったことによる寂しさを再認識して苛立ちを覚えつつも、主人公の「乱れがちだという食生活を支えるために、今後も料理を作りに来たい」という主人公の申し入れを受け入れる。しかし後日、主人公に「自分がこう歩み寄ろうとするのはかつての朔良の歌を取り戻したいからだ」と言われ、「家族と別れてからも他者と自分を繋ぐ心の支えとなっていた歌さえ、今はその力を失っている」という事実を突き付けられた朔良は、主人公を再度拒絶する。

それでも芹の支えを受けて再度朔良の家へと向かった主人公は、部屋の前で朔良が見知らぬ女性にキスされる現場を見てしまう。朔良は主人公を部屋に上げ、先の現場に動揺した様子の主人公に対し「主人公も同じように自分の身体を求めてるんだろう」と言って押し倒しキスをする。主人公はそんなつもりは無いと抵抗し抜け出し、強引に迫りつつも悲痛な表情を見せる朔良の心中を理解することができない歯痒さを感じながらも朔良に言われるまま部屋を去る。

朔良の心を無神経に踏みにじったと自責する主人公に対し、宗太郎は「朔良は今の家で仲睦まじく暮らしていた両親を亡くし、姉も結婚して離れてしまった」「大切な家族を失った悲しみを思い出させるため、朔良は(1人で)家にいたがらない」「その喪失感から、芹をはじめとすた仲間に依存したり、自分の顔目当てで近づく女性たちを拒まないようになった」ということを明かし、「朔良は裏切られることへの恐怖から主人公を突き放しているが、主人公の支えようとする心を信じようとしているはずだ」と励ます。宗太郎の言葉に支えられもう一度朔良の家に向かった主人公は、朔良の帰りを待って部屋の前で寝込んでいたところを家に上げられる。朔良は先日の行動を詫び、主人公の歩み寄りを受け入れると暗に伝えた。何度拒絶してもなお自分を支えようとする主人公の熱意と真っ直ぐさに朔良も心を溶かしつつあった。

ある日、仕事の現場で苛立ちのまま飛び出した朔良に付いて主人公は朔良の部屋に入り、そこで本文冒頭の心中を聞く。自分の弱さを知ってもなお幻滅することなく自分の寂しさに寄り添おうとする姿に堪え切れず朔良は主人公に縋り付き、主人公はそんな朔良を身体をもって慰める。以来、主人公は態度が和らいでいく朔良に次第に心惹かれてゆく一方で、朔良が求めるのは何であれ慰めとなる存在であって自分自身ではないのだということ、そしてその身体による「慰め」も決して本質的な解決にはならないことに切なさと無力感を募らせてゆく。

その後、主人公はイベントライブで偶然再会した前述の「見知らぬ女性」であるところの歌手のMERIが千哉に作曲を依頼したこと、そして千哉がそれを承諾したことを芹から聞く。「朔良が歌う、Liar-Sの曲」を作ることに誇りと拘りを持っていた千哉が他人への曲を作ることに違和感を覚えつつ、主人公は連絡の取れない朔良を案じて家に向かう。朔良は千哉の件を既に本人から聞いており、これで千哉は独立した作曲家として道を歩み、自分1人でLiar-Sの最期を見届けることになるだろうと諦念していた。主人公は、そう言いつつも朔良のLiar-Sへの想いは捨てきれるようなものではないこと、そして朔良以外のメンバーもその想いを共有していることを指摘し、「朔良が本当に望んでいることは何か」と問う。この問いに「Liar-Sを終わらせ、歌、音楽から逃げたい」と吐き出した朔良を、主人公はあても無いまま電車で連れ出す。辿り着いた海で2人で童心に帰って花火をしながら夜を過ごし、朔良は苦悩が晴れていくのを感じる。そして、朔良は主人公に「主人公のことを想うと純粋に歌いたいという想いで溢れる」「これからもそばにいて欲しい」と伝え、彼女への恋心は音楽や彼女に対しての姿勢を改めてから伝えようと決心する。

翌朝、芹たちLiar-Sメンバーが海に迎えに来たところで、朔良は千哉に「また立ち上がるための新曲を作りたい」と告げる。熱意を取り戻した朔良の様子に当惑しつつも千哉はそれを歓迎すると同時に、「MERIへの作曲は(決してLiar-Sを見限ったからではなく)Liar-Sの曲を高めるために新しい経験を積むつもりで受けた」と告白する。そして朔良の歌への情熱が蘇る中、Liar-Sは夏フェスでの再起を賭けた新曲発表に向けて一致団結する。

こうしてLiar-Sの新曲「RISE’n SHINE」は無事夏フェスで発表され、「デビュー曲とルックスが売りのバンド」という評価を打ち崩す(ry

そしてその舞台の後に朔良は主人公に想いを打ち明け、主人公もそれに応えて2人は恋人同士となる。

 

BADは青地部分で「逃げたいなら逃げ出せばいい」と答えた(BAD回避でも同様)主人公に対し、朔良が「そんな無責任なことを言うな」「お前は信者に過ぎない」と失望して追い返し、Liar-Sは消滅、アパートも取り壊された上で朔良は去っていく。そんな理不尽な。

BAD回避後のエンディング①は独占欲が強いからどうたらこうたらと(主人公が見ている)「テレビに映る自分」に朔良が嫉妬する話、エンディング②は正式に恋人となって初めての夜を共に過ごす話である。なるほど人気も出るわけだと思わされる程度には糖度が高い。

 

Liar-Sの問題の中心にある朔良の苦悩を暴いていくという本作の実質メインストーリーということで、かなり骨太というか少しずつ粘り強く戦う耐久戦のような話だった。(そもそも悩みの原因が朔良にある)千哉ルートははあくまで「支える」役割だったためか穏やかだったのに対して、このルートは朔良の悩みに直接対峙するため相応にドラマティックかつハード(主に貞操的な意味で)なストーリーで「ダイナミックらしさ」を代表しているように思う。まあ過激さで言えば上には上がいるのだが、このぐらいがスタンダードというところか。何度拒絶されても朔良の家に押し掛ける主人公の姿がプレイヤーから見ても異様だったり、彼のルートを考えると芹はともかく(貞操を奪われかけたことは知らないまでも)宗太郎が「朔良が試すようなことをしても許してほしい」とまともな倫理観では考えられないようなことを言い出すのでかなり気が散るのだが、十分読み応えはあったと思う。

特に前半が受け入れたり拒絶したりの連続で目まぐるしいが、状況としては「歌うことに対して『家族を失った寂しさ(を埋めるもの)』『どれだけ力を注いでも報われない無力感』『報われなくても仲間への責任を果たさなければならないというプレッシャー』といった様々な感情を抱え込んだ結果パンクして燃え尽きてしまった朔良に対して、これらの感情を歌からリセットさせて、真剣に自分の歌に向き合ってくれる人(=主人公)のために歌うという初心の熱意を取り戻させる」というように恐らくまとめられる。無力感は不屈の精神で、寂しさは(とりあえず)貞操で、プレッシャーは海への逃避行で解決したということになるんだろうか。総じて消化不良感は特に無いのだが、MERIと朔良が交際していたという設定が何に生かされたのかよくわからなかったのが心残りである。

 

ストーリーはさておき朔良というキャラに対する感想と言えば、「『女ってこういうのが好きなんだろ?』の原液を耳から流し込まれている感じ」に尽きる。気怠げでありながら無邪気な面もあり、かつ強気な裏に寂しさから主人公に縋り付く弱さも見せる。そして交際が決まってからは独占欲丸出しで愛を注ぐ……と大変こってりした恋愛模様に心奪われる乙女たちが多いのも納得である。いわゆる「過激派」が多いと言うのもさしづめ「独占欲には独占欲で応えるのが礼儀」というところだろうか。知らんけど。キスシーンなりベッドシーンもそこそこあるので好きな人には堪らないだろう。

Liar-S再生後も寂しさそのものは解決しようがないというわけか、おまけシナリオでは公衆やメンバーの面前で膝枕を要求したりキスしたりこれでもかと主人公へのぞっこんぶりを見せつけてくる。なお、寂しさを紛らわせるもう1つの手段であるタバコについては、アンコールストーリーで禁煙を試みるも何だかんだあって結局失敗する。この世界禁煙外来無さそう。

余談だが、CD等でメンバーや他バンドと交流している際の言動が自由過ぎて面白いので、男にベタベタ欲情されるのはなあ……という方にもそちらはお勧めする。